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世界で最も話される言語は中国語です。インバウンド対応でも外国人労働者対応でも重要度が増しそうですが、習得が大変です。外国人とのコミュニケーションの手段として東京五輪に向けて普及が図られている「やさしい日本語」なら、楽にマスターできそうです。

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2020.1.30

世界最多の言語は英語ではなく中国語

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世界で最も多くの人に話されている言語は、英語ではなくて中国語です。
「Ethnologue」という団体が2015年に発表した統計によると、世界で中国語を第一言語、第二言語とする人は10億5,100万人でトップでした。2位が英語で8億4,000万人。3位はスペイン語、4位はインドのヒンディー語、5位はアラビア語でした。
日本では、2020年度の学習指導要領改正で小学3年生から学び始める英語と比べると、中国語学習者はまだ少数です。たとえば大学入試への英語民間試験採用で話題になった英語検定(英検)の2018年度の受験者数は約386万人でしたが、中国語検定(中検)の受験者数は2万9,935人で、その128分の1でした。
それでも国内で中国語のニーズは年々高まっています。
日本政府観光局(JNTO)が発表した2019年1-11月の訪日外国人は2,935万5,700人で、中国が888万4,100人、台湾が454万2,300人、香港が204万1,200人で、それら中国語圏からの訪日客は1,546万7,600人で、全体の52.7%でした。
厚生労働省によると2019年10月末現在、日本で働く外国人労働者は146万463人で、国籍別で最多の中国(香港、マカオを含む)は38万9,117人で、全体の26.6%でした。
政府が東京五輪開催の2020年に4,000万人を目指す訪日外国人の半分、改正入管法を施行して5年で最大34万5,000人を受け入れる外国人労働者の4分の1は、中国語を話します。実用性では英語にまさるとも劣りません。

「中国人は英語を話せない」を前提にする

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香港は英国植民地だったので英語が通じることが多く、中国でも台湾でも英語学習熱は盛んです。しかし、失礼を承知で言えば、中国人の大部分は英語を話せません。それは訪日客も来日する労働者も同様です。ほとんどの日本人の英語力と大して変わりません。
ヨーロッパにはドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語など多くの言語がありますが、英語とは親戚同士で学校でもかなり勉強するので、訪日客にも英語を話せるドイツ人、フランス人、イタリア人、スペイン人はたくさんいます。英語で事足りますから、インバウンド対応でドイツ語やフランス語やイタリア語のニーズはさほど高くありません。むしろ中南米でも話されるスペイン語、ポルトガル語のニーズのほうが高いでしょう。
一方、中国語、韓国語、ベトナム語、インドネシア語などアジアの言語は、インバウンド対応だけでなく外国人労働者対応のニーズもあり、そのトップ級の言語が中国語です。中国語で対応できれば、中国語圏からの訪日客の顧客満足度が高まり、中国出身者がいる職場でのコミュニケーションがスムーズになると言っても、過言ではありません。

せめて「やさしい日本語」で対応したい

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しかし、ニーズはあっても、英語と違って小中高で習わない中国語をマスターするのは大変です。昔は中国人の間でよく行われた「筆談」は、今の中国は漢字が省略形の「簡体字」に変わったので、通じにくくなっています。
そこで東京五輪を控えた今、中国人に限らず外国人とのコミュニケーションの問題の解決策として関心が高まっているのが「やさしい日本語」というものです。
できるだけ少ない日本語基本単語を使って、ゆっくり、相手が理解したかどうか確認しながら会話をします。敬語は使いません。たとえば「帰国日は何日ですか?」は「あなたは、いつまで、日本に、いますか?」と、言い換え、区切りながら言います。話し方は「はっきり」「さいごまで」「みじかく」という「ハサミの法則」が原則で、書き言葉では原則、ひらがなだけを使います。
英語圏のアメリカやオーストラリアに旅行する前に、「旅行英会話」の本で付け焼刃に基本表現を覚え、現地で英語で質問した時、相手が中学程度の英単語で、区切りながらゆっくり、自分が理解したかどうか確認しながら会話してくれたら、助かるはずです。その日本語バージョンが「やさしい日本語」です。
欧米の人もアジアの人も、日本に旅行する前に挨拶や「これはいくらですか?」など、基本的な日本語会話を勉強していることがあります。労働者として来日するならもう少し深く勉強するでしょう。そんな人には、発音が下手な英語や未熟な中国語より「やさしい日本語」のほうが効きます。日本人にとっては、子どもに話すように言葉をやさしく言い換えるだけですから、楽にマスターできます。東京五輪にも間に合います。
「やさしい日本語」は、インバウンド対応でも、外国人社員とコミュニケーションを図る時も、病院でも、災害が発生して外国人に緊急情報を伝える時も、役に立ちそうです。
2016年、荒川洋平東京外国語大学教授を座長に多言語対応、多文化共生社会実現のために「やさしい日本語ツーリズム研究会」が発足し、東京五輪に向けて電通が運営の中心になって普及活動を行っています。法務省、総務省、文部科学省は「やさしい日本語」を多文化共生施策に加え、2019年6月には「日本語教育推進法」が国会で成立しています。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。

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「2020年、国内ニーズ高まる「やさしい日本語」とは?訪日客対応の解決策!」のライター