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「お金とは、ただのチケットである」

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2018.4.2

「自分に勝つ方法」。それは驚くほどシンプルなものだった。

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STAGE編集部:ボクシング人生を通じて学んだ「人生の教訓」
長谷川:ボクシングで学んだことは「自分に勝つのは誰でもできる」ということ。よく「自分に勝つにはどうしたらいいですか?」という質問をもらうんですけど、例えば、自分で毎日1キロ走ると決めるじゃないですか。それを1カ月続けるだけで、実は自分に勝てているんですよ。そうすることによって、「あ、俺1キロだけど、1カ月続けられた」という「自分に勝てる自分」ができ上がるんです。
もう1カ月続けようとか、もうちょっと距離伸ばそうとやっていくことによって、さらにまた自分に勝っていける。勝ち続けることが重要なんです。
STAGE編集部:まずは小さくてもいい。決めた目標をクリアすることが大事だという。
長谷川: 1キロでいいんです。毎日走ると決めて実行するだけです。みんな目標を高く設定して失敗するじゃないですか。500メートルでもいいんですよ。毎日走って「常に負けない自分をキープ」することの方が重要です。
STAGE編集部:成功を積み上げている自信が、より強い自分を作っていく。
長谷川:僕は絶対そうだと思います。引退してから余計思うようになりました。現役中は毎朝走るのが当たり前でしたけど今でも毎朝走っているんです。自分に勝って一日をスタートしたいんですね。あとやっぱり大切なのは「好きであること」ですかね。
STAGE編集部:仕事などが嫌いになってしまいそうな時はどうすればいいのだろうか?
長谷川:楽しいことを想像するといいですよ。ボクシングでいうと、もちろん一番は「チャンピオンになる」「試合に勝つこと」じゃないですか。でも、計量の後のご飯を食べることとか、パンチが当たったら楽しいとか。そういう細かいことでも良いんです。
サラリーマンの方であれば、いつか社長になるとかそういうのでも全然いいんじゃないですか?「好きであること」が出来ないまま成功している人はいないから。
STAGE編集部:そしてもうひとつ夢を叶えるために大切なことが…
とにかく口に出すことです、言霊(ことだま)。これは結構、叶いますよ。僕はこれまで生きてきた中で、口に出して言ってきたことは全部叶っていますね。

経営者として、夫として――大切にしているお金の使い方とは?

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STAGE編集部:かつて時給800円のアルバイトをしながら続けていたボクシング。自分の力で「食べていける」と感じるようになったのはいつ頃なのだろうか
長谷川:プロデビューから3年半の2003年頃ですかね。東洋太平洋タイトルマッチという、アジアチャンピオンを決める試合の話がたまたま来たんです。元々出る予定だった選手がバイクで事故をしてしまい、「ジム近いし、代わりにやる?」と。「やるやる!」と言って出たらチャンピオンになれたんですよ。その次の防衛戦からちょっとファイトマネーが上がりましたね。
STAGE編集部:世界チャンピオンになってからは、やはり世界がガラリと変わるのだろうか?
長谷川:ファイトマネーは一回勝つごとに数百万円ずつ上がっていきましたね。だからもうバイトで月給10万円だった人間が、いきなり300万とか700万とかもらうと勘違いしますよね? 最初は税金とかも分からないまま夫婦で時計買ったりして、翌年の納税額を知って驚きました。「よく野球選手がテレビで言ってたのってこれか~!」と(笑)今はそんなことしませんけど。
STAGE編集部:引退後はタイ料理の店の経営者に。お金に対するポリシーとは?
長谷川:ええかっこするわけじゃないですけど「人のために金を使う」。そして「ケチらない」。これはめっちゃ大事だと思います。僕もいろんな社長さんを見てきましたけど、自分だけガッサリ取って、社員にはちょっとという人もいるんですよ。「ああいう人にはなりたくないな」と常に思っています。お店で汗水垂らして働いているのは従業員ですから、たまに顔出して帰るだけの人間がオーナーだからと言ってガッサリお金を取るのは、おかしな話です。
働いている人間を一番大事にして、できる限り彼らに渡すようにすれば、彼らも頑張って返そうと思ってくれるんですよ。それを「お前はこれだけ、お前はこれだけ」と削っていたら、働く人間も不満しか残らなくて、絶対いい店にならないです。
ですから、社員研修という名目で皆を連れてタイ旅行に行ったりしていますね。
STAGE編集部:人にお金を使う。その精神は経営者になってから学んだことなのか?
長谷川:いいえ、もっと前から人を見て学びました。僕は若いうちにチャンピオンになったので、いろんな人が寄ってきたんです。中には自分を利用するために寄ってきた人も、そうじゃない人もいましたから見極めなければならなかった。最初は良いと思っても、付き合ってみてダメだと思った人もいて、その経験が今も反面教師になっています。
STAGE編集部:現役時代の支えになってくれた家族への思いというのは?
長谷川:ボクサーのときに出来なかった妻への恩返しは「一緒にお酒を飲むこと」。引退してからは、何もなくて、次の日も予定がない時は一緒に飲みにいきます。そして2カ月に一回、『ヤスコ会』というのをやっています。あ、うちの嫁さん「泰子(やすこ)」っていうんですけど。
それは僕の知り合いや嫁の知り合いの人とかがいっぱい集まって、飲みたいお酒があったら、どんな高級なお酒でも事前にそれを用意しておいて、ただただ泰子に飲ませて気持ち良くなってもらうという会です(笑)うちの嫁は面白いですよ。皆さんに紹介したいくらいめっちゃ面白いんです。
あと嫁の誕生日が8月25日なので、毎年それに合わせて家族でハワイに旅行に行っていますね。

長谷川さんにとってお金とは?

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長谷川:「お金とは、ただのチケットである」。
STAGE編集部:その心は?
長谷川:お金そのものには価値はないんですよ。燃やしたら消えてなくなる。でもそれで権利を買うというか、いろいろできる手段を得るだけのもの。執着したらダメなものです。
本当は「紙切れである」って言いたいんですけど、文字にするとめっちゃ恰好つけているみたいなので、これで行かせてください(笑)。
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「お金とは、ただのチケットである(長谷川穂積)」
長谷川穂積さん

長谷川穂積さん

1980年12月16日生まれ、兵庫県西脇市出身。1999年にプロデビューし、2005年、世界初挑戦で王者を倒してWBC世界バンタム級チャンピオンとなる。その後、絶対王者として5年間君臨し続け、10度の防衛に成功。その後は王座陥落するも、階級を上げてWBC世界フェザー級王者。WBC世界スーパーバンタム級王者という悲願の3階級制覇を達成。「年間最高試合賞」を何度も受賞するなど、その熱いファイトに魅せられたファンは数知れず。

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「〈長谷川穂積〉「自分に勝つ」のは簡単だ。誰にでもできる〜WBC世界スーパーバンタム級王者」のライター