「若者のクルマ離れ」など「若者の○○離れ」という言葉がよく聞かれますが、若い人の「好み」(「世代効果」)は大きく変わってはいないのに「年齢効果」や「時代効果」が変化した影響でそう見えている事例がある、というレポートがあります。
2019.3.5
「若者の○○離れ」は好みに合わないから?
「若者のクルマ離れ」「若者のゴルフ離れ」「若者の海外旅行離れ」など、「若者の○○離れ」という言葉がよく聞かれます。○○にはそれ以外にテレビ、タバコ、百貨店、お酒、スポーツジム、クレジットカード、電話、新聞、本、恋愛、結婚から「消費」まで入っているようです。関連する業界は「このままでは大変だ」と危機感をつのらせています。
「若者の○○離れ」の理由として、「今の若い世代は以前の世代と比べてライフスタイルや好みが変化し、そのため○○を買わなくなった」と説明されることが多いのですが、本当にライフスタイルや好みの問題なのでしょうか? たとえばクルマやゴルフや海外旅行は、もはや若者ののライフスタイルや好みには「合わないもの」と化したのでしょうか?
この問題に対し、データの数値分析の手法を使って解明を試みたレポートが「10年後に伸びる消費品目は何か?~注目すべきは高齢者よりも若者の消費トレンド~」(三井住友トラスト基礎研究所投資調査第2部・荻島駿研究員)で、今年1月に発表されました。
世代効果と外部の年齢効果、時代効果の関係
このレポートでは「コーホート分析」という手法を使っています。コーホート(Cohort)は「世代グループ」という意味で、生まれた年代(世代)を5年刻みで世代グループに分け、その消費傾向を分析しています。マーケティング調査でよく使われる分析方法です。
その世代グループ(コーホート)の消費決定要因を、「世代効果」「年齢効果」「時代効果」の3つの要因に分解・分析しています。基礎データは総務省が5年おきに発表し最新は2014年実施の「全国消費実態調査」です。
「世代効果」とは、「最近の若者は○○を消費したがらない傾向がある」という、世代ごとの消費嗜好の変化のことです。この効果が強ければ「若者の○○離れ」は本物です。
「年齢効果」とは、ライフサイクルによる消費行動の変化のことです。時代がどんなに変わっても、若い頃にはよく買ったけれど、年齢を重ねると買わなくなるものはあります。
「時代効果」とは、文字通り「時代」という外部環境の影響です。経済が好景気か不景気か、就職や転職がしやすいか、しにくいか、実質賃金が上がっているか、下がっているか、年金などの社会保険料の負担が多いか、少ないかなどが関係しています。
分析の結果、「世代効果」の消費への影響が大きいものは娯楽サービス、医療品・健康食品、保健医療サービス、日用品・化粧品、外食などで、世代効果が小さく相対的に「年齢効果」「時代効果」の影響が大きいものは家具・家事製品、家電、新聞・書籍、食料品、ファッション関連、旅行関連、教養娯楽用品などでした。
若者の外部環境の好転を待ってはいけない
注目したいのは世代効果の影響が小さく年齢効果、時代効果の影響が大きいものです。クルマはありませんが、海外旅行、ゴルフ、新聞、本、お酒などが入っています。わかりやすく言えば、余裕があれば若いうちに○○を買いたい、やりたいと思っているが、外部環境がそれを許さない、ということです。
「若者の○○離れ」と言っても、若者がその価値を全く認めないわけではありません。たとえばゴルフは、面白い、健康にいい、社交に役立つなどプラスの価値は認めていて、「あんなダサいスポーツ、絶対やらない」と思っている若者は少数派です。「ゴルフ、いいですね。若いうちに始めてみたいけれど、先立つものがなくて……」とあきらめている若者は、けっこういるようなのです。
しかし、ゴルフ関連業界は若者のふところ具合の改善を待っていてはいけません。若いうちに始めてもらわないと、一生ゴルフとは縁がなくなります。ためらう若者の背中を押すには、その負担を軽くして気軽に始めやすくなるような、思い切った施策が必要です。
トヨタ自動車は今年2月、税金や保険込みで毎月一定額を支払えばトヨタの乗用車を借りられる「KINTO(キント)」を発表しました。若者のクルマ離れに待ったをかけて乗り続けてもらうには、良いアイデアです。
商品やサービスには、メインターゲットの若者が減って消費が落ちたものも、構造的な問題で全体の消費が落ちたのを若者のせいにしているものもあるようですが、その若者のライフスタイルや好みは昔と大きく変わったわけではありません。「○○離れ」と言っても、「○○嫌い」になったわけではないのです。
エシカルとは? 日常のエシカル消費で世界の緊急課題解決 へ
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寺尾淳(Jun Terao)
本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。