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リバースプロジェクトは、俳優の伊勢谷友介氏が代表を務める株式会社です。アーティストを中心に、2009年に設立されました。テーマは「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」という壮大なもの。同社の共同代表である龜石太夏匡氏にインタビューをしました。

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2019.6.7
インタビューは2019年5月に行われました。事業内容や肩書は当時のものです。
リバースプロジェクトは「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」をテーマに、環境問題や社会課題の解決をクリエイティブな視点から試みる活動をしています。企業や行政とコラボレートし、衣・食・住を柱として、教育・芸術・まちおこしといった分野でプロジェクトを立ち上げ、あるべき未来をめざします。

伊勢谷友介と映画作りから始まったプロジェクト

STAGE編集部:リバースプロジェクト立ち上げの経緯を教えてください。
龜石さん:リバースプロジェクトは私と伊勢谷友介が二人で立ち上げた株式会社です。伊勢谷とは20年以上の付き合いなんですけれども、元々、我々は、映画作りを行っていて、彼が監督、私が脚本・プロデュースという関係でした。
映画作りの最初の作業は「脚本開発」なんです。脚本開発は、徹底的な会話から入っていく。どんなテーマにしようか、どんな作品にしていこうか。哲学的なアプローチだったりとか、政治経済、世界的な動向、文化、あらゆる角度から未来に向けての会話をしていく中で、テーマを見つけていくんです。そして、話を突き詰めていくと、社会課題に行きついてしまう。未来を語る上では、社会課題から目を背けることができないということに気付かされてしまったんです。
ただ、難しいテーマの映画になると、なかなかお金集めでも苦労しました。実際、脚本を書いて、その予算を集めるまでに結局7年かかったんです。
STAGE編集部:7年ですか!
龜石さん:7年です。その間に何本か別の映画をやったんですけれども。その7年間って苦しかったんですよ。正直、挫折の連続で。諦めるギリギリのところまで何度もいって。ただ、7年かけて映画を作ったことによって、すごく大事なことを学べました。
一つは、6年と10か月、しんどかった、つらかった。だけど、7年目にしてスクリーンでその作品を見た時に、「あ、あの時間ってこのためにあったんだ!」と心から思えたことです。
プロジェクトというのは、パッと思いついて実行して形にするまでって、途方もない労力と時間を要する。実はそこが、醍醐味であって大事である、と。それをきちっと諦めずに進んでいくことを学べた。
それと同時に、こんな大変な思いをして価値観みたいなものを作品に込めて、映画にしたとしても……見た人は1週間ぐらいで忘れちゃうよね、とも思ったんです。
ならば、我々の考え方とか価値観を継続的に実質的に発信する機能を持っていこう、と。
伊勢谷が芸大出身ということもあり、クリエイターやアーティスト仲間が、たくさん周りにいたんです。その仲間たちと、我々のこの思いや価値観を継続的に実質的に発信する機能を持とう、と。スタートは表現者たちの集まりでした。

壮大なビジョンを掲げたスタートアップから

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龜石さん:会社としてやっぱり理念というかビジョンを持つことが必要なので、これを言語化しよう、ということになり、
「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」
となりました。非常に青臭くて、途方もない理念なんですけれども、これは、本質的なことだと思うんですね。誰からも否定をされることではない。これを言語化した伊勢谷は、やっぱり天才だなと思います。
その理念を掲げて、人間が、社会生活を営む上で、基本的な「衣食住」、まずはこれを可視化してプロジェクト化していこう、というような形からスタートしました。利潤を追求しないNGOなどの在り方も考えましたが、営む、ということを大切に考えて、株式会社としての形態を選びました。
はじめのプロジェクトは、廃材から家具を作るというようなところからです。それが10年前です。リーマン・ショックの直後で、かなり困難な船出でした。
STAGE編集部:潮目が変わったポイントはありますか?
龜石さん:伊勢谷が俳優として急成長していたこともあり、「俳優がやってる会社」と色眼鏡で見られがちでした。我々の活動に日が当たり始めたのは、皮肉にも、東日本大震災がきっかけです。被災地と真剣に向き合って、微力ですけれども支援活動をやらせていただいたことが、結果として、世の中にリバースプロジェクトの名前が出ることに繋がりました。それを起点として、企業との取り組みも増えていきました。
そして次の契機となったのがSDGs※です。世界が取り組むべき課題と我々のコンセプトが一致して、いま求められていると感じています。
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※SDGs…国連で採択された17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標」のこと。国連加盟国は、2015年から2030年までに、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会など、持続可能な開発のための諸目標を達成すべく力を尽くすことを宣言している。

ゼロからイチを作ってきた10年間

龜石さん:我々はちょうど10周年を迎えているんですが、今までは、ただただ思いとか、情熱だけで走ってきた10年だと思っています。
10年前リーマンショックの年に、「人類が地球に生き残る……」なんて青臭いことを言って、10年続けてこれた、というのが自分たちの唯一誇れるところでもあるんです。ブレずにやってこれた。
それが結果として、小さいですけれども一つのブランド……リバースプロジェクトというブランドになってきた。
これからの10年というのは、今度は、我々がこのブランドというものを使いながら、「いかに仕事化をしていくか」ということになると思います。やっと会社になってきた。
リバースプロジェクトって、ゼロからイチを生み出していくことばかりだったんです。このゼロからイチを生み出すところというのは、仕事になりづらいんですよ。でも、非常に大事なことなんです。これがなければ何も生まれないので。
今後は、ゼロから生まれたことを1から5に、5から10にしていく、という段階です。
STAGE編集部:最近ではどのようなプロジェクトにとりくんでいますか?
龜石さん:例えば、囲碁教室のプロデュースです。
「囲碁を通じて子供の深い人間力の育成を目指す」というコンセプトで、一般社団法人囲新プロジェクト(所在地:山口県周南市)とともに、明治維新150周年を迎えた山口県周南市に囲碁教室「いいいいい 教室」を4月1日にグランドオープンしました。
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答えなき変革の時代と言われる現代社会において「課題、自己、人」に対して自ら考え実行するスキルが必要と言われています。本プロジェクトは、これらの能力を実践的に伸ばすための場を地域から創出し、囲碁を通じた子供の深い学びを研究、囲碁のさらなる普及を目指し発足したプロジェクトです。
今後、「いいいいい 教室」を起点とし、次世代のリーダーとなる「21世紀を生き抜く力」を持つ子供たちの育成に貢献していきます。

地方創生サービスが生まれるプロセス〜grully(グルリー)

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龜石さん:もうひとつ、昨年できたばかりの我々にとっては初のIT会社、リバースプロジェクトネクストがあります。
実は、リバースプロジェクトネクストは東日本大震災が起点といえます。
我々は、支援活動は継続しよう、フェーズを変えてやっていこう、ということを最初に決めて宮城を中心に活動していたんです。最初は、直接的支援としてクラウドファンディングを企画実行しました。「次に何か」ということで「復興商店街」というのが立ち上がったのですが、この復興商店街も3年後ぐらいには、ほとんど閑古鳥が鳴いている状態で。
そもそも震災がなくても「過疎」傾向にあったところです。震災の記憶が風化しつつある中で、そこに人を行かせるというのは、並大抵のことじゃないんです。
STAGE編集部: 「人を呼んでほしい」と相談されたのですね。どうしたのでしょうか。
龜石さん:そこで、マイアミのポーカー・ランというイベントを思い出したんです。ハーレーでチェックポイントにチェックインしてトランプカードを入手して、そろったトランプカードでポーカーで勝負をする、勝つと賞金がもらえる。全米のハーレーファンが集まるビッグイベントなのですが、スピードも競わないし、ピースですごくいい。そうだ、ポーカー・ランをやろう、と。
HONDAさんにプレゼンして、HONDAさんのナビゲーションシステムを生かしながら、いろいろな企業様を集めて検討し、復興商店街の全部と、内陸部も含めて、70か所ぐらいチェックポイントを設けて、最後はフェスに誘導する、そのためのアプリ開発をしました。チェックポイントが近づくと地図上にピンが立って、復興商店街の情報が流れます。そこにミッションを仕掛けておくんです。例えば、海鮮丼を写真に撮ってSNSアップしたら、ポイントアップ。店員とツーショット写真を撮ったら、ポイントアップ。コミュニケーションと消費を誘う一種の仕掛けで、結果、何千人という人が参加して動いて、フェスも3000人ぐらい集まりました。
これをやっている時に、「あ、地域創生に繋がる」と思ったんです。これを全国規模でやるには資金が必要、ということでキャッシュレスのインフラを作っているNIPPON Platform株式会社と一緒に合弁会社としてリバースプロジェクトネクストを設立しました。そこで、ポーカー・ランを元にした、https://grully.jp/grully(グルリー) というアプリサービスをローンチしました。
STAGE編集部:grullyはどんなアプリですか?
龜石さん:予算や趣味、移動手段を入力すると、コースを紹介してくれます。それを地域軸と趣味軸と両方で作っています。例えば、趣味軸だったら、ラーメン女子博をプロデュースしているラーメン女子の森本聡子さんがお勧めするラーメンコースの紹介などです。
ラーメン屋さんを羅列しているんじゃなくて、京都なら、ここで浴衣をレンタルして、夕涼みをここでして、ちょっと歩いたところに一杯飲み屋があって、最後に締めのラーメンはこれ、みたいな。そうすると、森本さんの1日のコースが辿れます。
あるいは、サウナ―と言われている、サウナ好きで有名なインフルエンサーの人が紹介するコース。サウナで汗を流して、その後のこの寿司屋が最高、そういうコースを辿れます。
ほかにも、観光協会が出すのとは違う「地域の人ならではのコース」などを、どんどん作っています。
STAGE編集部:楽しいですね。
龜石さん:今までの10年で積み重ねてきたこと、真剣に悩みながらゼロからイチを生み出したことが、1から5になってきている、なんとか形になっていっていると感じています。
おそらく、基本的には、面白いから続けてこれたんですよね。よく「真面目な会社だ」とわれるんですが、やっぱり、面白いから続けていられるんですよね。
〈後半に続く〉
龜石太夏匡

龜石太夏匡

2019年11月リバースプロジェクト代表取締役を退き会長に就任。1971年東京都生まれ。学生時代から脚本家を志しながら俳優としても活動し、北野武監督「ソナチネ」等に出演。1993年、2人の兄とともにアパレルショップ「PIED PIPER」を渋谷で立ち上げ、ストリートファッションシーンを牽引した。その後、映画に専念し、『カクト』『ぼくのおばあちゃん』『セイジ陸の魚』の脚本・プロデュースを行う。2009年、伊勢谷友介と共同代表で株式会社リバースプロジェクトを設立。

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