目次

世界第2位のペット大国日本には、ペットのための総合医療機関も、救急車もドクターカーも救急救命センターもあります。ペット用のサプリメントやコンタクトレンズの商戦も盛んです。しかしその陰で飼い主は、ペットの命に向き合う重大な選択にも迫られます。

gettyimages (38472)

2019.5.17

ペットのための「総合病院」までできている

gettyimages (38477)

ペットが病気になったら、近くにあるペットクリニック(動物病院)に連れて行きます。農林水産省所管の国家資格「獣医師」を持っているドクターが診察し治療にあたります。クリニックには国家資格ではなく民間資格ですが「動物看護師」もいます。動物のリハビリに専門資格はなく多くは動物看護師が兼ねているようです。資格はまだありませんが「動物薬剤師」を名乗っている人もいます。
人間の医療機関は小規模なクリニック(診療所)と地域の総合病院(地域医療支援病院など)、大学病院やがんセンターのような特定機能病院が「病診連携」して、患者の紹介などを行っていますが、ペット医療にも「連携動物病院制度」というシステムがあります。診療にはかかりつけのペットクリニック(連携先3,525カ所)からの紹介が必要な「日本動物高度医療センター(JARMeC)」が2005年に川崎市に開院し、東京、名古屋にも分院ができました。
川崎本院にはMRIもCTも内視鏡もICU(集中治療室)も、人間のための医療機器・設備とほぼ同じものがおよそ何でも揃っています。動物は血液バンクがないので、善意ある飼い主の同意のもとでペットから採血する「献血」も行っています。
そんな動物医療の二次診療機関は他にも全国各地に設立されていて、たとえば「DVMsどうぶつ医療センター横浜」は人間の救命救急センターのような救急診療センターを併設し、深夜でも急患を受け入れています。
なお、人間の救急救命士にあたる「愛玩動物救命士」という民間資格もあります。2016年10月からCARE PETS(ケアペッツ)は東京周辺で、電話を受けると24時間365日、自宅に急行し、必要なら動物病院への搬送や付き添いを行う日本初の「ペットの救急車」サービスを始めました。夜間に「アニマルドクターカー」が往診に急行する動物病院もあります(F&S動物救急/塩田動物病院)。

ペット用のコンタクトレンズもある?

gettyimages (38479)

日本は動物用医療機器、動物用医薬品ではアメリカに次ぐ世界第2位の市場規模があります。ペット大国で飼い主の目が厳しいので、最近はペットクリニックでも最新のハイテク医療機器を揃えるようになっています。病気やケガに備えるペットの医療保険「ペット保険」も普及しました。
動物も「健康食品ブーム」で、ペット用のサプリメントはペット医薬品やペットフードの専門メーカーの他、人間用でおなじみのDHC、カルピス(アサヒ飲料)、サントリー、テルモなどもこぞって参入しています。効能は口腔ケア、腸内環境サポート、便通、目の健康、スキンケア、関節機能維持、免疫力維持、老犬の栄養補助などさまざまです。
犬猫用「コンタクトレンズ」もあります。人間用の使い捨てタイプのコンタクトを応用したものですが、「字が小さすぎて読めない!」などと大声で吠える老眼の犬などはいませんから視力矯正のためにあるのではなく、眼帯の代わりに入れて眼病の予防、眼病の悪化を防ぐことが目的です。1997年からメニコンの子会社のメニワンが犬猫共用タイプを販売していましたが、シードも2018年8月に犬用の「わんタクト」、2019年2月に猫用の「にゃんタクト」を発売して参入し、この市場はにわかに活気を帯びています。

ペットを飼うと重大な選択を迫られることも

gettyimages (38492)

しかし、光あるところ、陰もあります。
健康保険にあたるペット保険には「高額医療費制度」も「後期高齢者医療制度」もないので、高齢のペットの病気や障害が重なると医療費が天井知らずでかかります。たとえば運動機能に障害があり、糖尿病、腎不全にがんも併発し、「寝たきり」でもっぱら点滴で栄養を補給する状態になったら、ペット保険があっても飼い主の医療費自己負担分はかなり大きくなります。
ペットは「リビング・ウィル」で延命の意思を表明できないので、このまま延命治療や緩和ケアを行っていくか、それとも獣医師に注射をしてもらって安楽死させるかという選択は飼い主が行うことになります。現実には「これ以上お金をかけられないから、泣いてお別れしました」も、少なくないといいます。
ペットの延命治療の是非については議論が分かれていて、軽々しく扱えない問題ですが、ペットを飼うということは、たとえ動物であっても「命」に向きあった重大な選択に迫られる可能性があると覚悟すべきでしょう。それでもペットの命に向きあって思い悩んだ経験はその人にとって将来、決してムダにはならないはずです。
gettyimages (38498)

寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。

元のページを表示 ≫

関連する記事

関連する記事

「ペット医療はもはや人間並み?高度な医療体制で起こる問題とは」のライター