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社会的事業を多く手がけるリバースプロジェクトは、株式会社として利潤も追求します。そこに存在するジレンマとは? そして、同社代表である龜石太夏匡氏の波乱万丈な人生から導き出した「お金」とは?を問います。価値観が揺さぶられるインタビュー後半。

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2019.6.13
インタビューは2019年5月に行われました。事業内容や肩書は当時のものです。

お金とプロジェクトのバランスは?

STAGE編集部:社会的に意義があることをしようとか、サスティナブルな社会を作ろうとしたときに、お金とはどのような位置づけになりますか?
龜石さん:リバースプロジェクトをやっていて、こんなことを言うのか、と思われるかもしれませんが、「いいことをやるから」とか「特別な素材を使ってるから」だけでは、商品は売れないんです。そこに価値を見い出すという人は、なかないないんだな、と、10年やってきて、感じています。
例えば、パートナーやクライアントがいるとすると、それは企業だったり、行政や地域だったりしますが、そこにきちんと利益を上げる仕組み、よく言うwin-winな関係にならなければいけない。メリットがなければプロジェクトは長続きしない、というのが本音だと思っています。それが「仕事」にしていくということだと思います。
リバースプロジェクトで、素晴らしいと言われる理念を掲げてやっていても、そこに片目をつぶらなきゃいけない瞬間もあるんです。仕事ですから。
STAGE編集部:利潤を追求する以上は、そうですね。
龜石さん:だけど、その中で「偽っているという心」を麻痺させないことが大事だと思っています。
例えば、エシカル(ethical)をテーマにプロジェクトをはじめたとします。エシカル素材で、制服を作りましょうとなる。でも、100%エシカルな制服なんて作れないんですよ。
50%なのか、30%なのか、もしくは10%ぐらいしか取り入れなれないかもしれない。クライアントの予算の都合があるからです。最初は100%で行こうと思っても、プロジェクトが進んでいくうちに、妥協の連続になる。
でもその中で、「じゃあ、これやるの? やらないの?」という話なんです。僕らはあくまでもプロジェクトを仕事でやっている以上、やります。これが10%でスタートしたとしても、次に20%にしていくことが必要なんだと思うからです。
我々は別に環境保護活動家でも保護団体でもない。あくまでも株式会社である以上は、きちんと利益を上げていく。こんな小さなリバースプロジェクトですら、やはり、きちんと利益を上げて、右肩上がりを作っていかなきゃいけない。
これが、今の社会のシステムの中では、絶対的な「お金にまつわること」。ここは、もう、本当に大きな社会システムが変わらない限りは変わらないと思っています。

ジレンマを抱えたまま進む

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龜石さん:だけど、東日本大震災があった翌年にはもう成長戦略を訴える社会システム、これも矛盾だと思っているんです。これから少子高齢化になって、モノが溢れて、縮小タームに入っているという時に、なぜか経済規模は、右肩上がりをしなきゃいけないというのは矛盾です。
僕が100万円貸したら、利子を付けて、例えば105万円で返さなきゃといけない。これは必ず5万円成長するっていう見込みが合って成り立ちます。
でも我々は、もう「プランBがない」という地球上で生きるしかない中で、エネルギーも無限じゃなくて有限だ、と分かっている。なおかつ、目減りしていく。しかも世界人口が増えていく。これが金融資本主義の、僕はジレンマだと思った。もう限界だと思ったんです。
次世代に世界を手渡す責任として、「この社会システムはおかしいんじゃないかな?」と問わなきゃいけない。それを僕はエシカルに繋がると思うし、SDGsに繋がることだと思っている。全世界でそういう流れが生まれてきて。
STAGE編集部:時代の流れはリバースプロジェクトの方ですね。
龜石さん:とは言え、究極の選択で言ったら、みんなカネを取るんですよ、絶対的に。
1000万円を目の前に積まれたら、片目どころか、両目つぶってこれを取るんですよね。
これが、本質だと思っています。そこの現実を分かった上で、理想を掲げて追求していかなきゃいけない。
だからこそ、段階を踏んでいって、10%かもしれない、いや5%しか我々の思いは実現できないかもしれない、それでもやっぱり「やる」っていうことが必要なんだと。その段階を作っていくってことが大事だと思っているんです。
STAGE編集部:ジレンマを抱えたまま「行くぞ」というのは、リバースプロジェクトの本質でもありますか。
龜石さん:本質でもあります。

成功して裕福だった20代からの夢を見る貧しい30代へ

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龜石さん:僕は20代、大学生の頃に、兄弟で渋谷に小さな洋服店を立ち上げたんですよ。長男が社長、次男がデザイナー、私が店長という形で。当時は、ストリートからオリジナルのブランドを作るっていうことがほとんどなかった時代だったので、1年ぐらいで非常に跳ねたんです。会社としては数十億の会社になって。一般的な20代の学生からすると、お金っていう部分で言うと、非常に裕福という状態でした。ポルシェに乗って、レインボーブリッジが見えるマンションに住んで、みたいな。
STAGE編集部:そうなんですね! 意外です。
龜石さん:立ち上げの時は、バブルが弾けた翌年だったんですよ。周りの友だちからも「洋服なんて売れないよ、絶対ムリだよ」と言われるから、兄貴に聞いたんですよ「なんで洋服屋なんてやるの?」と。兄の答えは「俺の欲しい服が日本にないよね」。この一言が痛快でした。
ただ、僕自身は映画を作りたいと、高校の時から脚本を書いていて。大学を卒業して就職する気もなくて、映画作りにそのまま入っていこうと思ってたので「ああ、じゃあやろう、一緒に。ただ、俺は映画を作ることが目標だよ」ということで始めたんです。
STAGE編集部:結果、事業は大成功したんですね。
龜石さん:次々にお店を立ち上げました。僕自身は店長だったので、スタッフを集めて、育てる。会社としては、店の出店ラッシュがおさまると、あとは卸業に移行、という時になって僕の仕事がなくなってったんです。スタッフも育っていきますし。20後半ぐらいの時、自分の人生をもう一回考えるタイミングがきました。
STAGE編集部:なぜ、そうなったんでしょうか。
龜石さん:僕は経営者でもないし、デザイナーでもない。「このままでいいのか?」と悩んだんですね。そのとき、出会ったのが伊勢谷だったんですよ。彼は芸大の学生で、遊びに来ていたんですね。彼は、映画監督になりたいという夢を持っていて。俺は脚本を書いてるんだよ、じゃあ、二人で映画を作ろうという流れで、映画作りに向かうことにして、僕は会社の権利を放棄して、辞めました。
本当に、1年ぐらいで一文無しになっちゃったんです。実家に帰って、ラブホテルで清掃員として働きながら映画作りをめざしていました。全くお金がなくて、でも自分のやりたいことを本気でやっている。

学生の質問に考えさせられた結果

マネラボ編集部:セレブのような暮らしから一転フリーターに。その方が豊かと感じましたか?
龜石さん:僕がある大学でお話をさせていただいた時に、質問で一番多かったのが、まさにそれなんですよ。「豊かな人生って何ですか?」っていう質問があったんです。
逆に「何だろう、豊かな人生って?」と学生に聞いたら、答えが二つに分かれて。
ひとつは、「お金が有り余るほどあることが、豊かだ」。
もうひとつは「精神的に満たされてることが、豊かだ」。
僕自身は、20代の時に、まあそれなりに裕福な暮らしをしていた。「豊かだったのか?」と言ったら、どうだろう。店を開きながら、ちょっと売上が下がると、「これ、来年は大丈夫なのかな?」と戦々恐々とする。ちっとも豊かじゃないんですよ。必死です。
じゃあ今度は30代で、お金はないけれども、自分がやりたいことに向かって必死になって、映画を作れたりして。「じゃあ、豊かなの?」と言ったら、やっぱり、ちっとも豊かだなんて感じていなかったんです。
その質問を受けた時に、「豊かな人生って何か?」と本当に考えたんですよ。僕の答えは何かというと、75なのか80なのか分からないですが……もう体が利かなくなって、ほとんど仕事もリタイヤして……。
 その時、自分が社会的地位がどれぐらいのもので、経済的にどれぐらい豊かになっているか分からないにしても、その時に、「自分の人生豊かだったのかな?」と、振り返って初めて感じることだと思ったんです。
STAGE編集部:では、今は、答えは据え置きということなんですね。
龜石さん:と思います。今は「その時に豊かだと思える生き方って何かな?」と考えるべきかなと思います。
 そうすると、これもまた青臭いんですけど、なるべく自分の心を偽らないで生きることだと思うんです。

お金は未来のために使いたい

龜石さん:リバースプロジェクトの若いメンバーは、すごく優秀なんですよ、素晴らしい才能を持っているんです。「お金だけ」ってことを追求したら、リバースで仕事しないほうが、何倍も稼げるはずです。はっきり言っちゃうと。
STAGE編集部: そうかもしれないですよね(笑)。
龜石さん:彼らと話していて思うのは、今僕たちがやっていることをやっていけば、ちゃんと「お金」も手に入れることができる時代になるし、また、していかなきゃいけないと、いうことですね。
STAGE編集部:では,亀石さんにとってお金とは、何でしょう?
龜石さん:「道具です」と言えるようになりたい(笑)。手段であると、言いたい。
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お金というものが、「これは道具の一部なんだ」ぐらいにとらえられれば…。道具なら使ってナンボですよね。固執をせずに、どんどん循環させて、次世代のために何かを使えるようになったらいい。
200億資産を残しても、棺桶には入れられないじゃないですか。よく言う話ですよね。
「何のために使うのか?」と言ったら、ひとつは、未来のためだと思うんです。「未来のため」というのは何かといったら、次世代のためである、っていう。
その本質は、たぶん世界的に、過去から何一つ変わってないと思っています。
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「お金とは、道具になって欲しい。(龜石太夏匡)」
龜石太夏匡

龜石太夏匡

2019年11月リバースプロジェクト代表取締役を退き会長に就任。1971年東京都生まれ。学生時代から脚本家を志しながら俳優としても活動し、北野武監督「ソナチネ」等に出演。1993年、2人の兄とともにアパレルショップ「PIED PIPER」を渋谷で立ち上げ、ストリートファッションシーンを牽引した。その後、映画に専念し、『カクト』『ぼくのおばあちゃん』『セイジ陸の魚』の脚本・プロデュースを行う。2009年、伊勢谷友介と共同代表で株式会社リバースプロジェクトを設立。

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