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累計335万個以上売り上げた玩具「∞(むげん)プチプチ」の生みの親であり、現在は株式会社ウサギ代表・おもちゃクリエイターの高橋晋平さん。一般的な起業家のイメージとは少し違うかもしれません。人生を楽しく、おもしろく生きていくコツはあるのでしょうか?

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2018.11.13

追い詰まった深夜、梱包用プチプチとの出会いがヒット商品に

STAGE編集部:「∞(むげん)プチプチ」が生まれたきっかけを教えてください
僕は「バンダイ」という玩具メーカーのボードゲーム担当で、ゲームのルールメイキングを勉強したり、企画を考えたりしていたんです。でも、当時はニンテンドーDS全盛期。ボードゲームは売れないから、流通でも社内の営業でももういらないみたいな状況でした。
上司は年間ボードゲームの売上目標のために企画を出せと言うんですけれど、営業がもう売りたくないって言ってて、その間に挟まれて、どうしろちゅうねんみたいな。
企画がさっぱり通らない状態が続いて、温厚な私も軽くプッツンしてしまって(笑)。
当時、ガラケーのストラップ売り場が拡大していたので、「じゃぁ、もう、携帯ストラップ出してやるよ!」と。で、ネタ探しのために企画会議の前日の深夜に社内をうろついていたら、玩具梱包用のプチプチの大きいロールを見つけました。
夜中に見たからか、プチプチの粒がボタンに見えてきて。これボタンで作れるんじゃないかとバーーッて書いて出したのが「プチプチストラップ」という企画だったんですよ。ゲームの企画会議でしたから、出席者みんなが、絶句、ノーコメントみたいな結果でした。
STAGE編集部:最初から企画が通ってたわけではなかった。
でも僕は、このネタが気に入ってきてしまって、企画をこっそり進めていたんです。
ある日、部長に商品化を申請する会議というチャンスがあったんです。その前に課長に許可をもらおうと、プチプチの企画の商品化を申請のプレゼンをしたいと言ったら、意味が分からなすぎるからダメだとなったんです。その課長は結構怖い上司だったので、今までの僕だったら引き下がっていたんですけど、なぜかこの企画を誰にも見せずに終わらせるわけにはいかないと思って食い下がったんです。その会議にはいろんな関係者が出席するので、そこでこの企画を問いたいという気持ちを引っ込められなかった。
それで、どうしてもプレゼンをしたいと課長にお願いすると、課長はしばらく黙って考えた末、ある一つのアイデアをくれたんです。実はこのアイデアが、プチプチ企画の成功を決定づけた。
STAGE編集部:どんなアイデアが出たんですか?
課長は、「このプチプチ企画は、プチプチして感触と音を楽しむストラップなんだけれど、100回に1回「プチ」じゃない音を出そう」と言ったんです。例えば犬の鳴き声とかおならの音とか、セクシーボイスみたいな変な音を入れて、内蔵スピーカーから100回に1回違う音がでる機能にしようと。そうすると、どうなるか気になって、変な音がでるまでずっとプチプチして100回押す必然性が出ますよね。100回目で変な音がでたら、次の音も気になって101回目を押してしまいたくなる。結果ずっと押し続けるという仕掛けになっているんです。
もし音が1種類だけだったら、みんな3、4回しか押さずに飽きていたかもしれない。100回に1回別の音を入れようというのはすごいアドバイスで、課長はものすごくセンスのある人だったなと思います。僕はこのプチプチ企画の成功を計算できていたというより、ただ感覚で面白いと思っただけだったと思います。
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アイデアは面白くても、お金を出して買う意味がなければ「商品」ではない

その時に、開発の仕事の基本であり重要な事に、入社4年目にしてなってようやく気付けたと思いました。おもちゃってまず面白いことが前提ですが、当前買ってもらわなければ意味がない。今で言ったら、ネットで騒がれたとしも、売れなければそれは「商品」ではないわけです。おもちゃはいかにお金を出して買う意味があるのかというのをちゃんと持たせないと、それは「商品」ではないということがやっと分かったんです。
僕は最初企画を出した時、面白いと思っていたけど、お客さんが買うか、買わないかは全然イメージできていなかったと思います。
プレゼンが通り、営業の人たちと話をしていくなかで、分かるようになってきた。おもちゃって、遊び方を体験してもらうためにサンプルを出すのが常識ですが、営業の戦略として、この商品はサンプルを一切出さないということになったんです。どんな感触なんだっていう期待感を煽らないといけないし、サンプルが壊れてて変な感触だったらアウトだし。買わないと押せない透明のケースに入れてぶら下げておくと興味を引いて、やってみたいから買ってもらえるという、購買導線を設計しました。
自分の考えたおもちゃを、価値に見合った金額で販売するという、ごく当たり前のことですが、お金を出して買ってもらえるって嬉しいし、商品ってそういうことだということが、この件でようやく分かりました。

健康が第一。自分にフィットした働き方を自分で作るための起業

STAGE編集部:独立起業したのは、やはり自信があったからですか?
自信でもなんでもなく。起業した理由はいくつかありますが、1つは体調不良でした。僕は幼少期から心臓も悪く、家系のせいかめちゃくちゃ痩せているし、体力がないんです。それでも頑張ってやってきたんですけど、前職のときに1度倒れたんです。復帰はできましたが、自分にフィットした働き方っていうのは自分で作らないといけないなって思うようになって。倒れた時は家族も悲しんでいたし、あらゆる意味で健康が第一だと身に染みて実感しました。
一方で大手おもちゃメーカーというのは、いっぱい売れるものを作らなきゃいけないじゃないですか。けれど当時から、僕がやりたいものはニッチな世界観に行ってしまっていて。
ヒットしているキャラクターコンテンツの商品で、そのファン向けに大きな商売をしなきゃいけないわけで。それを僕がやることについて悩み出したんです。このままキャラクタービジネスを学んでいくのか、もしくは、作りたいものをやってみるのかという二択と、もっと健康的な働き方、無理のない働き方がないのかというのがシンクロしてきて。
結論は自分がやれる働き方にしようと、後先考えず辞めちゃったんです。1度倒れた経験が大きかったので、体調が悪くもう1度倒れたらダメだと思っていた時期でもありました。
STAGE編集部:起業後のほうが、よりきつくなりませんでしたか?
その怖さはあったんですが、結果的にそうはなりませんでした。バンダイに約10年お世話になって、独立起業して今4年ですが。
新卒で大きい会社に入って、そこしか知らないで10年も経ってしまうと、辞めたら生活できなくなって死ぬんじゃないかっていう妄想が生まれていて、家族全員露頭に迷うって本気で思ってたんです(笑)。最初はそれ以上にしんどいから辞めたのですが。
仕事を辞めたあとで僕が成功したなと思っているのは、日雇いのようなことをやり始めたことです。辞めてすぐは仕事がなかったですけど、奥さんも心配していて家のローンも組んでるし、子どももいるし、真面目で勤勉な性格から「必死で働かないといけない!」って。知り合いが童話動画を作らないと言ったらその手伝いをやったり、文字起こしやお店の売り子などいろいろやって、2カ月くらい生活が成立したんです。この大都会東京にいたら仕事はいくらでもあるぞということが分かって、起業とはいえ、大それたことをしなければ絶対に死ぬことはない、起業とバイトはほぼ一緒だと(笑)僕の中では解釈したんです。
僕は自分の会社を大きくするつもりもないし、不良みたいな怖い相手とは絶対に仕事をしないし、優しい人とだけ仕事をします。今社員は総勢2人ですが、身の丈に合った働き方だなと思っています。自分が心身ともに健康であることを理念として、仕事を組み立てて4年間やってきました。だから、しんどくありません。これがもし、僕が「世の中に革命起こしてやるぜ」とか言って、大きく投資したりお金を借りたり、人もいっぱい雇うみたいなことをやると、精神がきつすぎて本当にダメだと思うし、生きていけないと思います。生まれながらの弱々しさが役に立ってるんです。うちの会社の経営理念は「健康第一」と、仕事相手の方々にはまず話すようにしています。自分と相手、両方の健康が第一ということです。
STAGE編集部:目から鱗です。

「仲良くいるために一緒に仕事はしない」という働き方は発明だ

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STAGE編集部:株式会社ウサギの運営はどうなっているのですか?
株式会社ウサギの社員は2人なんですけれども、2人とも代表取締役で2人とも代表権を持っているんです。もう1人はトーマスという8歳年下のハーフの子で、仕事がまったく違う。それぞれがソロ活動していて、1つの会社を共有するユニット的会社、シェアリング会社のようなやり方をしています。そして、絶対に一緒に仕事をしません。仮に相手がやれそうなことが来ても一緒にしない。現実世界で2人同時には表れないんです。たまにお茶したりとか、ウェブ上のみで絡んだりとかだけです。
お互い1人事業部として自分の口座を持って仕事をしているし、リスクヘッジで完全に税金を折半していて、お金で絶対にモメません。仕事も一緒にしないからモメません。ずっと仲がいいのを保つということが、僕にとって非常に重要だったので。最初は一緒に仕事をやろうかという話もしていたんですけど、それはやめようと。
 僕が勝手に思ってるんですけど、彼は僕にとって用心棒みたいなものでもあり、肉体も強靭ですし、悪い人が来た時に撃退してもらうお守りのようなパートナーでもあります。
STAGE編集部:ウサギという社名については?
相方のトーマスが「アリスインワンダーランド」って映画由来でつけたんですけれど。不思議の国のアリスのように、世界が裏と表あって、僕らはそれぞれ別世界にいるんだということでも説明しています。一方、僕は寂しいと死んじゃうところが由来だとも言っています。実は、トーマスと僕で会社の「ウサギ」のロゴも違うんです。相方はカッコいいセンスのクリエーター仕事なのでカッコいいウサギの方がいいし、僕は笑えるおもちゃだからシュールなウサギじゃないとダメ。それぞれ違うウサギロゴなんです。
うちの会社の働き方はすごい発明で、ウサギっていう社名も現時点での最高傑作だなって思っています。
高橋晋平

高橋晋平

株式会社うさぎ代表/おもちゃクリエイター

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「生まれながらの弱々しさが起業に役立った。<高橋晋平・おもちゃクリエーター/株式会社ウサギ代表>」のライター